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玉砕の島の慰霊碑が泣いている ≪2≫

-この記事は「諸君」2007年8月号から転載しています。執筆者は笹幸恵さん-


「ビジョンなき政府の海外調査」


私は戦後三十年経ってから生まれた。 まさに、「戦争を知らない世代」である。

物心ついたとき、高度経済成長期はすでに終わり、文明の利器に囲まれ、先の戦争について詳しく知る機会のないまま、漫然と過ごしてきた。ガダルカナル島を訪れた経緯については後述するが、かつての激戦地における慰霊碑の現状を目の当たりにして、衝撃と同時に強烈な違和感を覚えた。このままで本当にいいのだろうかと。

以来、憑かれたように太平洋の島々へ、慰霊の旅に出かけるようになった。ガダルカナル島をはじめニュージョージア島、ブーゲンビル島、そしてタラワ、マキン、サイパン。テニアン、硫黄島・・・といった具合である。


そこでの体験について近著  『女ひとり玉砕の島を行く』 (文藝春秋刊) で詳述しているが、慰霊の旅を通じて、私たちの世代はたった六十余年前のことすら何も知ろうとはしていなかったと気づかされた。

 生還者はほとんどがすでに八十代である。ある人は、息子夫婦の世話になりながら、家を売り払ったお金で慰霊巡礼や遺骨収集へ積極的に参加している。また別のある人は、十二年のあいだに二十六回も自らが戦った場所を訪れ、五年間の交渉の末、現地に観音像を建立した。

 彼は戦時中、ブーゲンビル島に上陸している、そこで警戒の任務についていた際、艦砲射撃によって左足首を負傷した。その後、部隊に撤退命令が出たが、歩くことができない。捕虜になるという選択肢はなかった。自決のほかない―そう覚悟を決めたとき、撤退したはずの戦友たちが担架を持って助けに駆けつけて来てくれた。戦友たちは兵站病院へと彼を送り届けた後、最前線へと出て行き、全員が戦死した。彼は口癖のように言った。

「今の私があるのは、戦友のお陰なんです。」

 老兵たちは、多かれ少なかれ「戦友に助けられた」という経験をしている。あるいはほんの数センチの差で、戦友は銃弾に斃れ、自分は生き残ったという体験を持つ人も少なくない。苛烈な戦場を生き延びてきた彼らにとって、現地に慰霊碑を建立しその御霊を慰めることは、彼らにできるせめてもの弔いの方法なのである。

 とはいえ、南方の島々における慰霊の旅は観光旅行とはまったく別物であることは言うまでもない。慌しく現地食をすませると、道なき道を進み、炎天下で慰霊祭を執り行う。宿にもどって一息つこうにも、宿泊施設の設備も十分ではないところが多い。あらゆる場面で不便を強いられる。慰霊巡拝のメンバーの中ではきわだって若い私ですら、体力的にも、精神的にもきつく、弱音をはいてしまいそうになることがたびたびあった。

 そんな中、日本でなら電車で席を譲られるような年代の人々が背筋をピンと伸ばし、文句一つ言わず、体調を崩すこともなく、粛々と南国の島を歩き回り慰霊を行っているのである。

 私が慰霊碑問題に興味をもったきっかけは、海外の民間人建立慰霊碑が朽ち果てているという新聞記事(2004年七月三日・朝日新聞)だった。厚生労働省が把握している慰霊碑五百八十七基のうち、「管理不良」もしくは「不明」とされたものは約四割にものぼっているという。その実態を確かめるべく、同行取材をしたのが、ガダルカナル島だった。

 しかし、実際に現地に行ってみると、事前の資料(現地の大使館などからの情報により、作成された慰霊碑のリスト。これを基に厚生労働省から委託された調査員が調査を行う)では把握されていなかったものが見つかるケースが少なくなかった。それらは、建立者も建立時期も把握できないものがほとんどだ。

冒頭に紹介した、ガバガ村の破壊された慰霊碑も、たまたま米海兵隊の上陸地点に足を伸ばしていた私たち一行が、現地の島民から教えてもらったものである。したがって「管理不良」や「不明」の慰霊碑は、新聞報道よりもはるかに多いというのが私の実感だ。

厚生労働省では、平成十五年から三ヶ年計画で、海外に在る民間人建立慰霊碑の調査を行っている。しかし取材を進めていくにつれ、調査そのものが付け焼刃で行われている印象を受けた。

取材を始めた当初、厚生労働省の担当者は、「個人の意思で建立された民間慰霊碑は、税金を使って補修や再建を行うことはできない」と語っていた。もちろん戦友会や遺族といった、いわば個人的感情で建立された慰霊碑に対して、税金を無制限に使うことは避けるべきであろう。しかし、その一方で「これから慰霊碑を建立したいという遺族もいるが、その場合、国としては止める理由はない」としているのは、長い目で見れば一貫性を欠く。

遺族感情に配慮した結果と好意的に解釈できなくもない。だが、税金を使って補修・再建できないというなら、民間人が建立する慰霊碑に対し、国として一定の制約を設けるべきではないか。新しく建立された慰霊碑も、歳月を経れば、再び税金を使って調査することになるのである。
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