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玉砕の島の慰霊碑が泣いている ≪3≫

-この記事は「諸君」2007年8月号から転載しています。執筆者は笹幸恵さん-


「戦友を悼み、父を偲ぶ」

 調査事業に目処がつけば何らかの方針が見出されるものと考えていたのだが、調査事業が三年を経過した今、厚生労働省では“整理事業”に着手している。

「管理不良」や「不明」とされた慰霊碑を、建立者や現地住民の了解を得て撤去するというものだ。しかし、現時点で「管理良好」とされた慰霊碑については、何の対策も講じていない。現在「管理良好」な慰霊碑であろうと、歳月を経れば「管理不良」や「不明」となる可能性は十二分にある。そのたびに税金を使って調査し、保存状態を分類し、やがては撤去していくのだろうか。目下朽ち果てかけている慰霊碑を撤去していくだけでは、問題の先送りに過ぎないのではないか。

私は、慰霊碑の撤去が税金の無駄遣いなどとは思わない。
むしろ長期的なビジョンを持たないままその場しのぎで調査・整理を行うことこそ、税金の無駄遣いだと思う。

生還者や遺族の中には、慰霊碑の建立に反対する人もいる。
慰霊碑を建てたところで、一体誰が継承し、維持・管理を行っていくのか。それが明確になっていないのに建立するのはあまりに無計画ではないかという意見。一方で、現地の住民感情に配慮すべきだという意見もある。現地の住民にとって見れば、日本は勝手に戦争を起こして、他人の土地に土足で入ってきたのだ。今また、自分たちの同胞のために慰霊碑を立てたいと言って入り込むのは、虫が良すぎるのではないか、と。

それぞれにもっともな意見である。しかし、こうした批判は、本来、個人で慰霊碑を建立した人々に対して向けられるべきものではない。そもそも戦争は、個人が起こしたものではないからだ。

慰霊碑の中には、昭和五十年前後に建立されたものが目につく。
たとえばガダルカナル島で激戦が繰り広げられた「血染めの丘」の慰霊碑は、昭和五十年前後の建立である。

同じくナナ村にある、野戦重砲兵第二十一大隊第二中隊の巡拝団が建立した慰霊碑は昭和五十六年、ブーゲンビル島キエタにある歩兵第四十五聯隊の慰霊碑は昭和五十八年建立のもの。

例を挙げればキリがないが、いずれにしても、これは生還者がその後、戦後の混乱期を生き抜きようやく定年を迎えつつあった時期と重なっている。

下士官だったある人は、以前、私にこう語ってくれた。

「死ぬのはまだ早い。お前にはやることが残っているだろう。そう戦友が語りかけてくるような気がするんです」

彼は会社を定年退職してからというもの、戦友会の事務局長として運営の一切を取り仕切り、慰霊巡拝の旅で遺族たちを引率している。

誰もが生きるのに必死だった時代、それが一段落ついて、ようやく戦時中の出来事に思いを馳せることができるようになったとき、彼らの胸に去来したものは、「何とかして異国の地に眠る戦友たちに報いたい」という思いだったろうと思う。自分たちがやらなければ、誰がやる。慰霊碑は、戦没者への思いが込められているばかりでなく、戦争を生き延びてきた彼らの人生に対する思いの発露でもあるのだ。

さらにこうして建立された慰霊碑は今、遺族の心の拠りどころになっている。もちろん、遺族感情といっても人により様々であるから、一言で括ることはできないが、少なくとも私が慰霊巡拝の旅で一緒になった遺族たちは、慰霊碑を前に、亡き「父」と対面している人が多かった。彼らもまた父のいない半生をやっとの思いで生き抜き、定年を迎えている。ようやく自分の時間が持てるようになったとき、思うのは父親のことである。そうして彼らは、父が亡くなった場所へ実際に赴いて慰霊をしたいと、かつての激戦地に足を運ぶ。

日本遺族会会長の古賀誠氏は四年前、父親が亡くなったフィリピン・レイテ島を訪れた、戦地へ足を運んでいる数少ない政治家の一人だ。

彼はこう語っている。

「二歳のときに出征した父の記憶は全くありません。しかし、父が亡くなった場所を訪れたとき、私は、父の存在をはじめて認識しましたよ。それまで母の苦労する姿しか見てこなかった。だけど、初めて父親という存在を――あなたがいたから今の私がある――ということを実感したんです。
父に祈りを捧げようとした瞬間、にわかに曇り、土砂降りの雨になったことを今でも強烈に覚えています。そして慰霊行事が終わって引き上げようとした途端、今までの雨がウソのように、再び晴れ上がった。ああ、父は待っていたのだ、何かを伝えたかったのだ、と思いました」

はるばる現地を訪ね、慰霊碑を前にして、「お父さ~ん」と声を限りに叫ぶ遺族。炎天下、直立不動でひたすら読経する遺族。戦後の自分の半生を手紙にしたためて読み上げる遺族もいる。「ここに親父がいるのだから」と、黙々と慰霊碑周辺の掃除を続ける――。これは、多くの遺族に共通する思いではないだろうか。

彼らの気持ちを百パーセント理解できるなどといえば、僭越に過ぎるだろう。

しかし慰霊碑を前にした遺族たちの姿をみれば、戦没者慰霊が税金の問題でも、まして風化したからといって杓子定規に碑を撤去して「ハイ、終わり」で済むような容易な問題でもないことが、身に沁みてわかる。
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